きみにとどけ、ぜんぶ


 ツナシ・タクトはシンドウ・スガタのことが好きだ。
男同士、友情や憧れという感情ではなく、ただ一人の人間として恋愛感情を持っている。

 あの日初めて、眩しい朝日の差し込む部屋で目を覚ましたときにみた、安心したあの笑顔がずっと忘れられずにいて、会うたびに彼に熱い視線を送っていた。
それがいつからか夜ベッドに寝転がっているときですら、彼のことが気になりだしていた。そんな日が続いていたある夜、気がつけば自分の身体が興奮の色を示していて、その時やっと自分の熱い視線の理由に気がついた。
 その夜はそのままどうすることもできず眠ることもできなくて、翌朝目の下にくまを作って現れたタクトに、スガタは心配そうに声をかけ気遣ってくれた。
本当はそんな風にしてもらう資格なんてこれっぽっちもないのに。そう思うタクトは口では「ありがとう」と言いながらも、内心彼への罪悪感でいっぱいだった。
 そんなこともあり、タクトはスガタに必要以上に近づかないように心がけていた。
もし彼の体温を近くに感じたりしたら、またあの夜のように自分の身体がどうにかなってしまうような、そんな恐ろしさがあった。
だから、先日部室であったワコの妄想(周りにダダ漏れである)には正直焦った。いつものように”分かってない”という顔をするのにタクトは精一杯だった。胸のあたりが苦しくなって、どうにかなりそうだった。
そして、彼の、スガタの思いつめたような視線にはまったく気づけずにいた。

 一方のシンドウ・スガタも、誰にも言うことはないがツナシ・タクトのことが好きだった。
彼の想い人と同じように、恋愛感情を持って彼を見ていた。
しかし彼は、初めて浜辺でタクトを見つけたあの日から自分の気持に気づいており、ずっと彼が好きという気持ちを抱えて日々を送っていた。
所謂一目惚れというやつだ。今にも死にそうに青い顔をして、生気の抜けた彼をみて心が震えた。恐怖とかそういうものからではなく、ただ”彼を死なせてはいけない”どうしよう、と。声が聞きたい笑ったところが見たいと思った。

 そんな日々の中、スガタはある日を境にタクトが自分を見つめる瞳の色が変わったことに気づいた。
そしてスガタは”もしかしたら”と思うようになった。もしかしたら、彼もまた自分と同じ感情を持っているのではないか、と。しかしそれが自分の思い過ごしか、思い上がりであったとしたら。
 それからはもう、ただひたすらに苦しかった。あの瞳が自分を捉えるたびに淡い期待を抱いて、そんな自分に呆れて、悔しかった。
 タクトはとにかく異性に人気がある。いつも自分ばかりを気にかけてくれていたワコでさえ、自分を差し置いてタクトを追うこともしばしばあった。
女子からちやほやされているタクトは楽しそうで、そんな彼が自分を好きになるわけはなく、万が一にでもこの気持ちを知られでもしたら、そう思うとどうしようもなく不安を掻き立てらる。
 けれど一度”もしかしたら”と思った気持ちは押さえられずに、スガタの中でくすぶっていた。

 それから数日後、シンドウ・スガタは思いつめた表情をしたツナシ・タクトに呼び出された。
 「放課後ちょっと、僕に付き合ってくれないかな。場所は…あの浜辺に来て欲しい」
初めて二人が出会ったその場所に。

 放課後、スガタが焦る気持ちを押さえられずに足早に向った約束の場所には、すでにタクトの姿があった。
同じ教室だったタクトは昼休みを堺に姿が見えなくなっていて、どこかで一人この瞬間の事を考えていたのかもしれない。
 サクサクと砂を踏みしめる足音に、広がる海を見つめながらタクトが口を開く。
 「よかった、きれくれたんだ。スガタ」
振り返ったタクトの表情は穏やかで、その瞳は優しく細められており、それを見とめたスガタは少しだけ呼吸を楽にした。
 「…なんだよ、急にあらたまって呼び出すから、何かあったのかと思って心配した」
 「ごめんごめん!別にさ、これといって何かあったわけじゃないよ。ただちょっと、…ちょっとスガタに話したいことがあったんだ。呼び出して、ごめん」
そう言って、タクトはスガタの瞳をしっかりと捉えた。その真剣な眼差しはとてもきれいで、スガタがいつも感じていた熱い瞳だった。
 「話、聞いてもらってもいいかな」
 「ああ、聞くよ…」
二人向い合って立つと、碧い海がタクトの赤を一層際立たせて、スガタの瞳にうつった。
 「僕さ、この場所で初めてスガタと出会ったでしょ。でも、僕の方は意識がなかったから、ベッドの上でになるのかな。」
 「ああ、そうなるかもな」
 「そのときさ、スガタはどう思った?僕はね、凄くきれいな青だと思ったんだ。」
そういってタクトは右手をスガタの髪に伸ばした。指に絡めた青い髪は、さらさらとすり抜けていく。
 「それからなんだか、ずっとスガタのことが気になっちゃってさ、笑っちゃうよね?もう目が離せなかったんだ。」
 「タクト、」
スガタは、彼のいわんとすること気がついて、息を飲んだ。その瞳は大きく開かれている。
ずっと持っていた”もしかしたら”という想いが、スガタの呼吸を苦しくした。
スガタの歪められた眉に、タクトは胸が熱くなった。熱くなってもうこれ以上、冷静に話せそうにないと思った。

 「スガタ……抱きしめても、いいかな…」
タクトの切羽詰った声にスガタはコクリと頷く。そしてすぐさま伸びてきた両腕に抱きすくめられた。
 「スガタ…ッスガタ…!もう俺どうしよう、スガタのことが、好きで好きでたまらないんだ。好きでもう、どうにかなりそうだ…!」
ぎゅうぎゅう抱きしめるタクトの体温がすごく熱いものに感じて、その熱にスガタは胸につかえていた苦しい気持ちが一気に溶かされた気分だった。
恐る恐るタクトの背中に回されたスガタの両腕がそっと彼を抱きしめると、タクトが一層強い力で抱返してくる。
 「タクト、タクト…」
全身から伝わってくるタクトの気持ちに、声が詰まる。スガタも、この身体から彼が好きだという気持ちが伝わるようにと思った。
けれど、ちゃんと言葉にしないと伝わらないことだってあることを、スガタはよく知っていた。それは今さっき、彼からしっかりと受け取った。
 「僕も、タクトのことが好きだ…好きだ、タクト。嬉しいよ…ありがとう。」
 「スガタ…」
お互い目元が熱くなって、本当にもうこれ以上何も言えなくなる。
ひたすら抱きしめあって感じる体温に、時間を忘れそうだった。


END



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