Lovely day デート編


 「坊ちゃま、とてもお似合いですよ!バッチリです!」
 「ああ…ありがとう」
 しぶしぶながら着替えを終えたスガタは、ひざ丈のスカートの裾をつまみあげ、視線の先にある普段は出さない白い足とどうしても視界に入ってしまう膨らんだ胸にまゆを下げていた。
タクトとジャガーの選んだ服装は、濃い目の水色のカーディガンとスタンドフリルの真っ白なブラウス。そしてひざ丈の青いスカートだった。
スガタのイメージだからとタクトが譲らなかった青である。確かに髪の色と合わさって白い肌によく似合っていた。
 「タクト様ー!坊ちゃまの準備整いましたので、お入りください」
扉の向こうで今か今かと待ちわびていたタクトに、ジャガーは明るい声で呼びかける。
 「はーい、ではさっそく…」
返事と共にゆっくりと開けられた扉の向こうから、もじもじと俯き加減なタクトが姿をあらわす。どうやら照れているらしいタクトは、後ろ手で扉を閉めるとぎゅっと目をつむり、スガタが立っているであろう方向に顔を上げた。
 「ほらほらタクト様!早く見てあげてくださいませ!」
そんな様子のタクトがじれったいジャガーは、足取りも軽くタクトへ向かうとその背中を両手でグイグイ押していく。もちろんその先にいるのはスガタである。
 「うっうわ!ジャガーさんっ」
 「タクト…お前が選んだんだろう。ちゃんと目を開けて僕を見ろ」
いい加減見かねたスガタが声をかけると、ビクリと身体をこわばらせたタクトだったが、そろそろとその瞼を開けてしっかりと目の前にいるスガタを視界に捉えた。
 「スガタ…!スガタ凄く可愛い…!!」
まるで花がさくように笑顔になったタクトは、一歩スガタに近づいて、そのままスガタの胸に飛び込むように思い切り床を蹴る。
 「わっ!」
そうしてたどり着いたスガタの身体を両腕で力いっぱい抱きしめると、スガタの耳元で「本当に…凄く、可愛くて…凄くきれい」と声を震わせた。
 「仕方ないな、お前は」
感極まっているタクトにため息をつく。すっかり困り顔のスガタだったが、うっすらと頬を染めて優しい瞳でタクトの背中に腕を回した。
そんな二人の様子を、すぐ後ろにいるジャガーは満面の笑みを浮かべて見守っていた。

 青いロングヘアーを揺らしながら僅かに俯いた少女の手をとり、満面の笑みを浮かべた赤毛の少年は同じく満面の笑みで見送るメイド二人に大きく手を振って歩き出した。
 「僕もこの眼鏡で変装は完璧だね!」
 「はぁ…まったく、おまえは気楽でいいな」
 数分前、着替え終わったスガタにいたく感動していたタクトだったが、ふとこのまま部屋に閉じこもっていても仕方がないと、スガタを外へ連れだそうと言い出したのがきっかけだった。
それをきいたメイドも興奮気味に同意を唱え、勢いに押されるままスガタは首を立てに振ってしまっていた。
後悔先に立たずとはよく言ったもので、「スガタだって万が一にもバレたら事だから」と元の色と同じカラーであるロングヘアーのウィッグを被せられ、更に念には念をと赤いフレームの眼鏡もかけさせられてしまった。
タクトもタクトで、じゃあ僕も…とおそろいの眼鏡をかけ、鏡の前で「これでバレないね!」などと一人満足気にしていたのだった。
 「そうだ、まだ朝ご飯食べてなかったよね?この時間ならあそこのカフェが開いてるかな」
うーんと顎に指を絡ませながら唸るタクトに、スガタはまさかと冷や汗を流す。
まさかここまで『バレないように』と変装までさせられたのに、わざわざ知り合いの店に行くわけがない。
そんなスガタの心配をよそに、タクトは閃いたとばかりに握っていた手をぎゅっと握りなおして笑みを向けた。

 ついた先はやはりというか、スガタの予想通りであって、彼らがいつもよくしてもらっているカフェであった。
入り口で深い溜息を一つついたスガタは、今朝から蓄積されて来た疲労もありもう何も口に出さないでいた。
それほどまでにこの変装に自信があるのだろうか、スガタの疑問はつきないままである。
 「この席でいいよね」
そう言って連れていかれたのは一番奥の角。一応は人目につかないように気を使っているらしいタクトに、スガタは何故だか笑いが止まらなかった。
そんな自分に首をかしげる彼はわけがわからないといった表情をしていて、それがまたたまらない。何故笑ってしまったのかはスガタにもよくわからなかったが、それが楽しく思えていた。
二人向かい合わせに席につき、軽い朝食メニューをオーダーすると、今になって焦ってきたのかタクトが不自然に視線を泳がせていて、それに気付いたスガタはまた小さく笑みをこぼした。
 「なんですか、さっきっから」
 「ハハ、いや悪い。最初は気が進まなかったけど、なかなかいい気晴らしだなと思ってさ」
 「ならいいんですけど…」
むすっと頬をふくらませたタクトは、拗ねたようにプイッと顔をそらせた。

 無事正体がバレることもなく、二人はカフェを後にしていた。
やはりあまり人がいる場所は何かと心配だと、二人はいつも訪れる浜辺に来ていた。
そこはひとけもなく、波の音しかしないような静かな場所だった。
 朝の日差しと潮風が気持ちよく、女性の体になってしまったスガタもようやく気持ちが落ち着いてきたのか安堵の笑みを浮かべていた。
カフェを出てから繋ぎ直した手はそのままに、仲良く砂浜に腰を下ろす。潮風で揺れるいつもよりもずっと長い青い髪がとても綺麗に見えた。
 「スガタはさ、どんなかっこうでも、男でも女でもさ、スガタなんだよね」
波打ち際を見つめながら、タクトが独り言のように口を開いた。
 「なんだ、突然…」
 「ん、いや特にこれといって深い意味はないんだけどさあ、僕はね、本当にスガタのことが好きなんだなって思ったんだ」
 「こんな時間から、恥ずかしいヤツだな」
言いながら、強く握られた手にタクトはフワリと笑った。別にスガタに何かを感じたわけではない。本当にただ、本当にそう思っただけ。
タクトは返事をするように強く握り返すと、背を伸ばしてスガタの頬に軽いキスを送り、その肩にゆっくりと頭を凭れた。
 触れ合う体温は二人の心のように暖かかった。


END



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