Lovely day


 暖かな朝の日差しの中、タクトは目を覚ました。
腕の中には大切な恋人であるスガタがまだ眠りの中にいて、その蒼い髪を目を細め愛おしげに梳く。
それから抱きしめなおそうと一度腕を外して、タクトは気づいた。
なにか、スガタがとても柔らかかったのだ。
こういう言い方をすると語弊があるかもしれないのだが、とにかく柔らかいとしか表現できない。
タクトはその柔らかさの原因が分からず顔をしかめ、そして1つの”予感”にたどり着き自分の考えにつばを飲み込んだ。
「ス、スガタ…」
一度体を離してから、恐る恐るシーツをめくってみる。
すると目に飛び込んできたのは、紛れもなく”それ”だった。
「胸…おっきい………うそ、うそちょっと!スガタ!!!」
「ん…」
パジャマの胸元を押し上げるそれは、横向きなせいなのか見事な谷間を作っており、タクトの血圧を一気に上げた。
「早く起きて早く起きてスガタァァァ!とにかく早く目を覚まして!お願い起きて!!」
「ぅ…ん、……うるさいな…今日は土曜だろ、なにをそんなに」
「スガタァ!」
タクトの悲痛な叫び声でようやく目を覚ましたスガタは、一体何事かと瞼をこすりながら起き上がり、そして自分の違和感に気づいた。
「なにか、重たい。…タクト?」
目の前で正座をして固まる彼をみて、スガタは眉を寄せる。
タクトの視線が自分の体の一点で止まっているとこに気づき、促されるように自分の視線を下に落とす。そこで素っ頓狂な声をあげて両目を見開いた。

「は!?」

視線の先には柔らかそうな膨らみが2つ。
信じられないといった面持ちで、震える両手を自分の胸元へ持っていき、そっと触れてみる。
柔らかさと指を押し返す弾力。そして埋まる指先。確かに押された感触もあった。
女性特有のそれは、たしかにスガタの身体の一部になっていたのだった。


「スガタ!スガタ、触ってもいい…?ねえ、ちょっとだけ…もしかして下もなくな、」
「いい言うな!!ッダメに決まってるだろう!何を考えてるんだ!」
必死に腕をクロスさせて身を守るスガタに、こちらもまた必死に迫るタクトは目が若干血走っているように見える。
相手の手を避けるために左右にふられる身体はその贅沢な胸を存分に揺らしてしまい、タクトはますます鼻息を荒くしている。
ベッドの上で繰り広げられる攻防は次第に騒がしくなっていき、ついにはスガタが大きなマクラでタクトの顔面を殴るが、彼の勢いは止まらない。
「お願い!」
両腕をこれでもかと伸ばして胸を触ろうとするタクトの手をマクラで叩き落して、息も荒いスガタの顔は真っ赤だ。
もはや自身の体の変化への動揺よりも、目の前に迫り来る魔の手から身を守るのに精一杯である。
「いいかげんにしろ!」
思い切り振り下ろしたマクラは、今度こそタクトの顔面を思い切り直撃して、うぐっという声と共にタクトは仰向けにベッドに沈んでいった。
「お前はこの状況に少しは危機感を持て!」
ぎゅうとマクラを胸に抱きしめるスガタは瞳まで潤ませており、流石のタクトも彼の言葉とその表情に我を取り戻したのか、弾かれたように目を見開いて、それから瞼を閉じると「ご、ごめん…なさい」とぼそぼそと声を漏らした。

そんな二人の耳に「どうかされましたかぼっちゃま!」という声が聞こえ、一瞬にして飛び起きたタクトは正面からスガタを覆い隠すように抱きついた。
「タクトお前!」
「大人しくして、これ見られたらまずいでしょいくらなんでも!」
「だが…ッ」
あたってるんだよお前の!そう赤面していうスガタはタクトから視線を逸らしていて、自分の失態に気づいたタクトは思わずその体を離してしまった。
そこに丁度良くドアが開けられ、飛び込んできたジャガーは声をあげようとして、固まってしまった。
「ジャ…ジャガーおはよう…」
スガタの震えた声が、シンとした部屋に溶けていった。

いくらか間があって、先程のタクトと同じく弾かれたように我を取り戻したジャガーが両頬を抑えながら悲鳴のように声を上げた。
「ぼっちゃま可愛い!可愛いです!!」
一気にベッドまで駆け寄られ、言われたことを理解出来ていないスガタの前までくると、その瞳をキラキラと輝かせた。
そこで漸くタクトは気づいたのだが、元より長かった睫毛は更に濃さを増していて、女性の体つきになったせいで肩幅も縮まっており、パジャマの袖から覗く手首は細く、その先に伸びる指は更に繊細さを増していて誰が見ても綺麗だった。
そんな風にタクトが思っていると、前にいるジャガーが彼の、いや今は彼女の一点に視線を注いでいた。
「おっきい!ぼっちゃまそんな…私よりも大きいかもしれませんよこれ!」
視線の先。興奮に頬を染めながら言うジャガーは眼鏡を曇らせる勢いで鼻息も荒く、はやり先ほどのタクトとよく似ている。
(いやな予感がする…)
そうスガタが思ったのもつかの間、今度は前屈みで横にいたハズのタクトがベッドから降りるとジャガーの両手を握ったのだ。
「ジャガーさん…ッ!!」
「タクト様…!了解致しましたッ!」
「なにが?!」
これはスガタだ。
突然始まった訳のわからないやりとりに反射的につっこんだものの、半ば放心状態である。
「待っててくださいねぼっちゃま!すぐ戻ってまいります!」
「頼みましたよ!ジャガーさん!僕信じてます!」
言い残して颯爽と部屋から出て行ったジャガーにタクトは手を振りながら見送り、すでに遠くなった声で「任せて!」と返事が帰ってきた。
「…」
今度は声も出せなかったスガタは、いま身に起こっていることを、そしてこれから降り注ぐであろう嫌な予感を理解したくなくて、思考を明後日の方に飛ばしたのだった。
「今日はほんとにいい天気だな…」


程なくして戻ってきたジャガーの腕には、彼女の私服だろうワンピースやスカートが数点抱えられていた。
果ては下着(もちろん上下セット)まであり、それに気づいたスガタがまさかと絶句していると「大丈夫ですぼっちゃま、新品ですので!」と笑顔で言われてしまった。
問題はそこじゃない。そう言いたかったスガタだったが、もはや発言する気力もなくなりかけており、ただじっとベッドの上で座ったままだった。
「ジャガーさんの私服って可愛いデザインが多いんですね」
「やだタクト様、褒めるならこれを着たぼっちゃまを褒めてくださいまし!」
「もっちろんですって!」
床に広げた服をあれこれ意見をかわしながら吟味している二人をよそに、一人スガタは厳しい面持ちでじっと自分の胸を見つめていた。
「なんでこんなことに……誰の第一フェーズだ」
怒りと憎しみの篭った声は、幸いにも誰の耳にも届かず消えて言った。

「スガタ!これとこれとー、あとこれね。一応ほら、女の子なわけだし…僕部屋出てるから、着替え終わったら呼んでね?」
今更照れているのか、差し出した着替え一式をスガタがしぶしぶ受け取ると、タクトはほんのり耳を赤くし上目遣いでスガタに告げそそくさと部屋を出ていってしまった。
ジャガーは「何かご不便があるといけませんので」と言っていたので、着替えを手伝うつもりらしい。
普段背中を流してもらうくらいなので、今更彼女に対してそれほど羞恥心を持ち合わせているわけではないのだが、今は状況が違う。いやむしろ、今は彼女と同じく女性なのだから逆に恥ずかしがることもないのかもしれないが。
複雑な心境を胸にスガタはため息を一つつくと、覚悟を決めたのだった。


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