放課後バス停 〜if〜


もしスガタが本当に怒ってたら。


 「え…なに僕、気に触ること言っちゃった?イッツアピーンチ?」
 両腕で自分を抱いて困ったように眉を八の字に曲げてそういうタクトは、本当にそう思っているのだろうか、からかいさえ含んでいそうな声だった。
しかし、そんなタクトの様子にも一切表情を変えようとしないスガタに、これはしまったとタクトは素早く思考を巡らせる。一体なにが彼の機嫌を損ねてしまったのかは分からないが、今ここで無駄に喧嘩などしたくはない。そうなると後がやっかいだと、タクトは既に心得ている。
 「あー…あの、スガタさん。僕はその、別に悪気があってこういう発言をしたわけではなくてですね」
あたふたと両手でジェスチャーを加えながら必死に訴えてくるタクトの姿は、傍から見れば彼女の機嫌を必死にとる彼氏そのものに見える。
バス停を通りすぎていく他の生徒たちも、タクトとスガタ、その知名度もあってチラチラと視線を送ってきては興味津々とばかりに目を輝かせたり、慌ててそらしたりと様々だ。
 「…スガタ?」
そう言って、どうにもうまい言い訳が思いつかずお手上げとばかりに肩を落としたタクトに、ようやくスガタは口を開いた。
 「…タクト、君は僕がいるのに他の女に目移りするのか?」
キンとした冷ややかな声で言ったスガタの視線はまっすぐにタクトを射ぬく。その視線にヒヤリとしたものを感じ取ったタクトは、一瞬にして顔をこわばらせた。
 「えっ、そんな、つもりで言ったんじゃないよ!…何か誤解してる?スガタ、」
 「誤解?自分が周りの女からちやほやされてるのに気分を良くして、僕に自慢でもしたかったんだろう」
先ほどとは違う焦りがタクトの頭から爪先まで支配して、心なしか口の中が乾いたようだった。自分の軽い冗談がまさかこんなことを招いてしまうなどとは露程にも思っていなかった。
けれど相手はスガタだ。少し考えれば彼の性格からしてある程度の予測は出来たかもしれない。タクトは心臓の音がうるさいほど頭に響いていて、うまく思考できなくなってきてしまう。
そんなタクトを冷ややかな視線でみていたスガタは、もういいとばかりにベンチから立ち上がろうとする。
もはやバスがくるのを待っている気分でもなかった。
 「黙ったってことは、…そういうことなんだよな」
何故こんな些細ともいえることで、こんなにも気持ちが高ぶったのか。スガタも自分の嫉妬心に唇を噛み締めた。
噛み締めていなければまた何か彼に言ってしまいそうなのが怖くて、スガタがタクトに背を向け一歩踏み出そうとしたときだった。
 スガタの後ろで勢い良く立ち上がったタクトが大きく息を吸い込んで、何かが吹っ切れたようにありったけの大声で叫ぶ。
 「違うって言ってるじゃないか!!僕が、僕が好きなのはスガタだけだ!!!」
声につられて勢い良くスガタが身体ごと振り返り、それをすかさずタクトが全身で抱きしめる。
これには傍観していた生徒たちも、突然の大声と衝撃的な告白に思わず歩みを止めて息を飲んだ。
言われた本人であるスガタも、瞳を瞬かせて信じられないといった表情で、自分を抱きしめてくるタクトの背中にそっと触れる。
演劇部で鍛えられて声量をましていたタクトの大声は、一瞬にして辺を水を打ったような静けさにしてしまった。そんな中、いつの間にか到着時刻になっていたバスがエンジン音を響かせながら近づいてきていた。
 「っ!これで、分かってくれた?僕の気持ち。僕が好きなのも気にするのもずっと一緒にいたいのも、いつも考えるのも悩むのだって嬉しくなるのだってなんだって、全部、全部スガタのことだ…から。」
そういって身体を離したタクトは耳をほんのり赤色に染めていて、バツが悪そうにスガタの瞳を見た。
 「ごめん…僕ってホントばかだよねー…こんなところで一世一代の告白をしてしまいました。…これって青春を謳歌?」
へにゃりと照れくさそうに笑ったタクトに、もうスガタは何もいう気にはなれなかった。何も言葉が出てこない代わりに、大きくため息を一つついて、タクトと同じように笑った。
そこにちょうど到着したバスをタクトがちらりと見て、スガタの手を取る。
 「バスはさ、やめとこっか。今日は寄り道しよう?あの浜辺まで」


END



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