放課後バス停


 ざわざわと下校する生徒たちの話し声や笑い声で賑やかな校門を抜けて、タクトとスガタの2人はバス停にたどり着く。
 今日は珍しく、ワコは友人らと喫茶店に行く約束があるからと先に帰ってしまっていた。
いつもなら3人でのんびりと歩いていて、バス停に着くまでに余計な時間がかかるのに、1人抜けたせいか普段よりも幾分早い到着である。スガタが時間を確認すれば、2人が乗るはずのバスがくるには余裕があり、それではと空席だったバス停のベンチに2人で腰掛けた。
 「なんか2人だと、結構早くついちゃうものなんだねぇ」
まだずいぶんと高い位置にある太陽を見上げながら、タクトがぽつりとつぶやく。
 「ああ、そうだな。普段はワコの話を聞きながら歩いているからかな。歩調がワコと一緒になる」
タクトのつぶやきに、スガタも同じく太陽を見上げながら口をひらいた。細められた瞳が太陽の光を反射してキラキラして見える。
 「スガタは紳士だもんねぇ。女の子にはやっぱり優しくしなくっちゃね」
ふふん!と、どこか自信有りげな表情をしてタクトは隣のスガタに顔を向ける。
するとスガタも、また同じようにタクトへと顔を向けてきた。しかしその顔はあからさまに「くだらない」といった意味を含んでいて、それを読み取ったタクトが首をかしげる。
 「え…なに僕、気に触ること言っちゃった?イッツアピーンチ?」
両腕で自分を抱いて困ったように眉を八の字に曲げてそういうタクトは、本当にそう思っているのだろうか、からかいさえ含んでいそうな声だった。
 しかし、そんなタクトの様子にも一切表情を変えようとしないスガタに、これはしまったとタクトは素早く思考を巡らせる。一体なにが彼の機嫌を損ねてしまったのかは分からないが、今ここで無駄に喧嘩などしたくはない。そうなると後がやっかいだと、タクトは既に心得ている。
 「あー…あの、スガタさん。僕はその、別に悪気があってこういう発言をしたわけではなくてですね」
あたふたと両手でジェスチャーを加えながら必死に訴えてくるタクトの姿は、傍から見れば彼女の機嫌を必死にとる彼氏そのものに見える。
バス停を通りすぎていく他の生徒たちも、タクトとスガタ、その知名度もあってチラチラと視線を送ってきては興味津々とばかりに目を輝かせたり、慌ててそらしたりと様々だ。
 「…スガタ?」
そう言って、どうにもうまい言い訳が思いつかずお手上げとばかりに肩を落としたタクトに、ようやくスガタは表情を崩しだした。
 「ははっ、ふふ!」
 「スガタァ…」
我慢しきれないといった感じに口元に手をあて、込み上げてくる笑いを抑えるスガタをみて、タクトは漸く自分がからかわれていたことに気づいた。
 「そりゃないよ。スガタも人が悪い!僕今本当に、スガタのこと怒らせちゃったかと思って、」
情け無いような、泣きそうな声でうなだれるタクトに、スガタはついにふきだしてしまう。その表情は滅多にお目にかかれない程に楽しげである。
 「くく…ッ」
 「スガター!」
恥ずかしさと、珍しいスガタの声を上げて笑う様子に、タクトは顔を真赤にしてベンチから勢い良く立ち上がった。既に通り過ぎる周りの生徒の存在など気にしてはいなかったが、グッと一瞬拳を握ると一呼吸おいて「スガタ!」ともう一度声を上げた。
 「な、なにタク…、」
目尻にたまった涙を指先でぬぐっていたスガタも、タクトのハリのある声に弾かれるように彼を見上げる。
しかしその瞬間、太陽を背にしたタクトが影になって、スガタの視界にはタクトの真っ赤な髪だけが写りこむ。そして、唇に柔らかで温かい感触と、ちゅっと軽いリップ音がしたと思うと、また眩しい太陽が戻ってきた。
 「ふふん、僕をからかったりするからですよー頬なんか染めちゃって、僕はそんなスガタも好きだよ?」
 「〜〜〜ッ!」
まさにしてやったり!という顔でそう言ったタクトの表情はうって変わって後ろの太陽のように晴れやかで、一瞬前までみたことがないくらいに笑っていたスガタは突然の出来事に、これもまた珍しくポカンとした表情で固まっていた。
 そこにエンジン音が聞こえてきたと思えば、既に立っていたタクトが自分の鞄と、いつの間にかスガタの手から落ちてしまった彼の鞄をもって「バス、きたみたいだけど?」と満面の笑みを浮かべている。
スガタが我にかえったのはそれから次の瞬間で、深い溜息をつきながら到着したバスに乗り込んでいくタクトの背中を追いかけるのであった。
その表情は、傍観していた生徒たちが頬を染めるものだったとか。

END



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