休み時間前のチャイム


なんの脈絡もなしに、自称人妻高校生であるミセス・ワタナベはいつもの独り言をはじめている。
そして、その独り言は明らかに前の席に座っているタクトへ向けられていることは、このクラス全員の認識でもあった。
 「ねぇそうは思わない?」
 「や…その、…はぁ」
今更名指しされなくても自分に対しての発言ということはタクトもわかっていて、内容にどぎまぎしつつもしっかり聞いてしまっているのが、タクトのいいところなのか、問題なのか。
そんな二人の様子を遠くの席から見つめるスガタといえば、ミセス・ワタナベに対する嫉妬心で握っていたシャーペンの芯を折っては出し折っては出しの繰り返しで、周囲の生徒をびびらせている。
その顔はポーカフェイスで守られているからまた恐ろしい。なんともないと言った顔で全身から立ち上らせるオーラといったら本当にない。
もはや、いつスガタが口を挟んでくるのか、それだけがクラスメイトの不安要素である。
そんなことが実際に起きたとしたら、授業中だろうが構わず逃げ出す覚悟だ。他人の恋愛事情に巻き込まれるのはごめんである。
スガタとタクト、この二人の関係は公表さえされていないが、普段の様子を見ていれば二人が恋人同士であることは容易に想像がつく。それほどこの二人が人目をはばからず振舞っているのか、といえばそうではなく。嫉妬心の塊であるスガタがことあるごとに周りの人間を威嚇してくるのだ。
笑っているはずなのに目が笑ってない。コワイ。ツナシ・タクトと一緒にいるときのシンドウ・スガタに微笑まれたら逃げろ。これが自分の身を守るための暗黙のルールであった。
 「それでわたくし思うのですけど、タクトくんはスガタくんとはもう身体の関係がおありなのかしら?もし満足できてないのだったら、いつでもわたくしがお相手、」

キーンコーンカーンコーン

 「あっ!お昼じゃん!!ほっほらほらスガタくん私今日は部室の方で食べたいな!?ちょっと遠いし早く行こう!!タクトくんもだよ!!!」
ミセス・ワタナベの声を遮ったチャイムを聞いたワコは、待ってましたとばかりに立ち上がり、ガタガタと机と椅子を鳴らしながら素早く荷物を持つと、一直線にタクトの席へ向かい彼の腕を掴んで引っ張った。
必死なワコをなだめつつ、タクトがふと教室に視線を送れば、授業を担当していた教師もほっと安心した表情で額の汗を拭い、クラスメイトたちは机に突っ伏したもの、全力で教室をあとにしたもの、前後の生徒と手を握り合って涙を流し合っているものと様々で、その様子を見て 「ああ…」と自分も冷や汗を拭うのだった。
 「ほほほほらほら早くしよ!」
 「ミセス・ワタナベ…今度僕のタクトにそんな話をしたら、どうなるか、わかりますよね…」
スガタの地を這うようなドスの利いた声に、ヒッとクラスの誰かが声を上げる。
まずいまずいとグイグイとタクトの腕を引っ張って、ワコはやっとの思いでスガタの席まで移動しスガタも回収すると、タクトに荷物を押し付け今度はスガタの腕をとって必死に教室を後にしたのだった。
その間の、スガタの表情は影がかかっており伺うことはできず、全身から発せられるオーラにはワコとタクト以外は近寄れそうもない状態で、まさに爆発寸前の巨大爆弾といっても過言ではなく。
一方残されたミセス・ワタナベといえば、涼しい顔でシモーヌを呼びつけていて、これではまたいつ同じことがおきても…と生徒たちの心を暗くするのだった。


END



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