ダブル


  「やっと会える…スガタ」
 眼下に広がる海は夜の星々を映し出していて、月明かりがタクトを照らしていた。
あの日、母から告げられた言葉はずっとタクトの中で重く心にのしかかっていて、ようやく訪れたチャンスにタクトは必死にすがりついた。
  「スガタ、スガタ…早く会いたい」
 タクトは明日から、母の生まれ故郷である南十字島で高校生活を始める。
自分の双子の兄である、スガタを探し出す目的を秘めて。

 タクトの母であるソラは、タクトだけではなくもう一人子供を身ごもっていた。
無事産声を上げた二人のうち、先に生まれた青い髪をしていた子供は胸にシルシを持っていて、それに気づいたソラは青い髪の兄を隠すように育てた。
 そんな生活の中、島からの追っ手に兄のシルシが知れてしまい、兄はシンドウ家に連れ戻されてしまったのだと、タクトは聞かされていた。
そしてこの話は、ソラがタクトに残した最後の言葉になった。
 その後、祖父に引き取られたタクトは母の言葉を一度も忘れることなく、日々を過ごしていた。
そんな中やってきたチャンス。祖父から委ねられた特別なシルシ。
これでタクトは理由ができたのだ。あの島に行く理由と、そして兄に会う口実が。


  「嘘…でしょ、ここ、まさか」
 朝、目覚めたタクトは自分の状況をすぐさま理解した。海に飛び込んでそれから何があったのか。
ドアが開き、視界に入ったのは青い髪。
 「僕はシンドウ・スガタ。こっちは…」
 タクトは兄である青い髪の片割れと再会したのだった。


 あれから随分タクトは悩んだ。長年恋焦がれていた兄とこんなにもあっさり再会出来るとは夢にも思っていなかったのだ。
そう、恋焦がれていたのだ。血の繋がった実の兄なのに、この想いはまさに恋だった。
会いたくても会えない、そんな苦しい日々からついにタクトは終止符を打った。

 放課後、スガタに誘われていつものようにシンドウ家の道場へやってきたタクトだったが、稽古もそこそこにスガタに唇を奪われた。
  「あ…!んっん、あ!」
窓も扉も締め切られた道場の中、壁に追い詰められるようにしてタクトはスガタを受け止めていた。
片足を肩に担がれたこの体勢は呼吸が苦しくて、タクトは背中を駆け上がってくる快楽と息苦しさに目尻に溜めていた涙を流す。
そんなタクトの涙を唇で拾いながら、スガタは怪しく瞳を細め、唇は弧を描いていた。
  「あの時は本当に驚いたよ。まさか僕の弟がタクト、お前だったんて。想像もしてなかった」

 スガタは幼い頃、大人たちが 隠れるようにして何かを話し合っている光景を見た事があった。
自分に知られまいとしていることは、聞こえてくる言葉の端々から察することができた。
その僅かに聞き取れた言葉の中に、『弟の存在』 があったのだった。それ以来、スガタはその存在を思い描くようになった。どんな姿なのか、性格なのか。やはり双子だけあって見た目は似ているのだろうか。様々なことを想像しては興味を膨らませていた。
そしていつか、探し出してみたいと思うようになった。自分の片割れを。

その時すでに、スガタもまた記憶にすら残っていない双子に恋をしていた。


 そして数年後、その存在はあっさりと目の前に現れたのだ。はじめはまったく気付かなかったし、想像もしていなかった。
見た目が似ているわけでもなかったし、なによりその出会いは偶然だった。

  「あっあ!ん、んっ」
  「けど、双子独特のものだったのかな。妙に惹かれていたんだ。まるで他人じゃないみたいな、言ってしまえば自分の身体の一部みたいな感覚だよ」
すごく不思議だった。初めは意味も分からず戸惑ったよ。そう続けながら、スガタはギリギリまで抜いたそれを勢いよく突いた。
  「はっ、あ!ぁあッ!」
  「ふ、ぅ……ッ」
スガタは奥歯を食いしばり、 やり過ごした快楽に息を詰める。ぎゅうぎゅうと締め付けるそこは、あまりにも相性がよかった。
  「僕も、僕も惹かれてたんだ。ずっと昔から、スガタが、好きだったから……みたことも、なかったのに、だから……」
はぁっと大きく息を吐くと、タクトは涙で濡れた両目でしっかりとスガタを捉えた。
そして首に回していた両腕に力を込めると、ぐっとスガタとの距離を縮める。
  「一目見るどころか、友達にもなれて、一緒にいられて、ならもうそれでいいんじゃないかって、思ってたのに……我慢出来なくなって、」
あの日、キスをしてしまったんだ。
  「ん……」
いい終わるか否かのうちに、タクトはスガタと唇を重ねた。 ねっとりと絡み合う舌が熱くて、甘くて、また涙が溢れ出していた。
タクトの気持ちや熱を受け止めるスガタはもまた、思いがけず知ったタクトの秘めていた気持ちに、鼓動を早め目元を熱くしていた。
  「その、不意打ちのキスからはじまった関係だったけど、ようやく本心が聞けてよかった……タクト、好きだよ。愛してる……家族としても兄としても、恋人としても」
  「僕もッ僕も好きだ……!スガタ、もっと欲しい、スガタが欲しいよ」

 堪らなくなって、止まっていた動きを再開させると 再びタクトの口からは甘い喘ぎが漏れ出し、お互い苦しいほどに募った想いが熱となって溢れ出したようだった。

END



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